第10回研究会までの振り返りと今後

 チャプレン研究会は、多くの回を、イスラーム・ジェンダー科研の共催・後援をいただいてやってきました。これは後援を得たということだけでなく、共通の関心ごとを見いだし優れた研究者にお会いできた意味でも、また、ムスリムチャプレンについての回の詳細な報告を、同科研のウェブサイトでご覧いただけるという点でも、とても幸運なことでした。


英国におけるムスリムチャプレンについての先駆的といえる研究、Sophie Gilliat-Ray, Understanding Muslim Chaplaincy,2014について、「巣ごもり読書会」(コロナ禍で会えないですから)で、国際医療福祉大学の細谷幸子先生と上智大学の葛西とで、紹介させてもらいました。以下で当日の配付資料をダウンロードできます。また、このページでは、チャプレンとは何か、そしてムスリム(イスラーム)のチャプレンとは何かについて短い説明を試みています。なお、Sophie先生たちにお会いする機会をその後に得て、ご本人たちもとてもすてきなかただったことを付け加えます。
http://islam-gender.jp/news/344.html

米国のハートフォード国際宗教平和大学(もとハートフォード神学校)で教鞭を執るビラール・アンサーリ先生の講演も行いました。米国でムスリムチャプレンがどのような歴史をたどり、どのようなことをしていたのかが浮き彫りになる講演でした。以下で講演の日本語書き起こしがダウンロードできます。ちなみに小ネタですが、ハートフォード神学校は日本の内村鑑三が憧れていたところで、実際に入ってみたらリベラルすぎて肌が合わなかった、というところでもあり、ムスリムチャプレンの養成がそこでおこなわれているということが興味深く感じられます。
http://islam-gender.jp/news/345.html

第7回のムハンマド・マンスール・アリ先生(英カーディフ大)の講演は、イスラームの伝統的な教師・学者であるイマームと比較しながら、医療や司法におけるムスリムチャプレンの活動を位置づけたものでした。とても好評でしたので、講演録を準備できないかと思っております。

葛西は上智大学で日本版のチャプレン養成に関わっているのですが、そもそもチャプレンとはなに? 何を基準にして養成すればよい?という問いを抱えていました。上智大学の養成方法は、米国で100年前に始まったキリスト教プロテスタントチャプレンの組織的養成(臨床牧会教育)の影響を強く受けたもので、病棟での苦しみ悩みの傾聴者を一つの典型として想定しています。いっぽう、イスラームのチャプレンは、(葛西の印象ですが)アドボカシーとエンパワメントに重きを置いていて、それはなぜだろうというのが以前からの疑問でした。欧米諸国への移民としてのムスリム/ムスリマの経験、それゆえのアイデンティティ模索や伝統的なイスラーム法との生き方すりあわせ、家族や女性のあり方をめぐる課題(DVや虐待含む)などがすれ違う場所に、イスラームチャプレンがいるのだと知りました。また、欧米のムスリムチャプレンの取り組んでいる問題は、日本のムスリム(ムスリムチャプレン)にも通じるものがあり、さらに、日本の他宗教/無宗教チャプレンも、ムスリムチャプレンの経験から学びうるものがとても多いと感じています。細谷幸子先生を介して、イランで勃興しつつあるスピリチュアルケアの教育者や実践者たちとも出会いました。そのため、たまたまムスリムチャプレンの回が多いのですが、その他のチャプレン(韓国の緩和ケアや日本の刑務所での教誨師の歴史と活動)についても採り上げています。

今後なのですが、ヨーロッパでの刑務所の職員(チャプレン含む)と入所者に行った大規模調査(Islam in Prison)を昨年刊行された、カーディフ大のマンスール・アリ先生の同僚であるMatthew WIlkinson先生に交渉するとともに、この本自体もご紹介できないかと考えています。この本、本格的な調査の報告でありながら、同時にビジュアルで、イスラームについての簡潔な紹介もあり、教科書的・啓発的な使い方も想定された意欲的な本です。どんな読者を得るのか、私たちはどんな使い方ができるのかといろいろ想像を膨らませております。

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